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遅まきながら2013.2月にインド映画に恋をしてしまいました。


by Akane

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インド映画は 北と南がキーワード

これも「あなたがいてこそ」の反響に対しての補足記事。前回こちら、インド映画ビギナーの為の3記事です。
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<北のヒンディ語他・・ 南にテルグ語、タミル語>
 「あなたがいてこそ」(Maryada Ramanna)は、テルグ語映画です。これはボリウッド映画とは違います。最初の記事でも言いましたがボリウッド はインド映画の総称ではありません。多少細かく言うなら、ボリウッドとはインドの映画の都 商業都市ムンバイで作られるヒンディー語映画/映画界のことを指します。

 インドという国は、各地方の独自性が強いだけでなく、南北のいろんな面での格差や風習の違いや歴史背景を持っていた積み重ねがあって、北は政治の中央をつかさどるところが大きく、南北の軋轢のようなものが社会に横たわっています。
 関西人が、東京に反骨心を持ったりすることがあるんですが、歴史や文化の自負があるので、事情のわからない東京中央に地方のことを馬鹿にされたくないことに対する、妙な敵愾心や反骨心があるんですね。 案外インドの南北は、それに似ているかもしれません。南は、政治の中央の北インドへの負けん気や反骨心を持っていまして、北は政治の中枢であったりするので都会のインテリ層も多く南を田舎者扱いするような側面もあったり、そういう国内の地域独特の価値観で、時に反発しながら、時に協力しながら、いい感じの刺激しあいが国内の成長に躍進に一役買っています。
 そして、政治の中心は「ヒンディ語」が公用語で「北」はインドの政治の中心なので、中流~上流層は、ヒンディ以外に英語が中心言語でもあります。

 ヒンディ語映画・・・というのは、その通り、公用語がそうであるように、インド全土で上映される理由はそういう中央の価値観の地方への普及・・・という目的があると私は思っています。つまりは国策です。
 映画は検閲がある産業です。宗教や慣習など複雑な社会を抱えるインドにとっては、映画の検閲は必須のものになりますし、性的なタブーも多い国なので、映画の検閲と、その検閲の通る映画を作ろうとすると、インドという国をプロパガンダする作品は映画としては検閲に好意的受け止められますので、そういうファクターも増えるのは必然でもあります。(地元愛が強いということは自国を愛してもいるからでもありますが)

<北は小難しく、南は娯楽傾向>
 インドはいろんな問題を社会に抱えていることを自分たちでもよく知っていますが、その解決には教育の普及は不可欠ですが、その教育を誰もが受けられるわけでもありません。その教育手段として映画は大きな啓蒙ツールでもあります。
 つまりヒンディ語映画は、中央政治の中枢との距離がわりと密接になって、時には国威発揚な軍映画など作られたり、インドが国際的な価値観で諸外国から認められるために必要な不可欠のことを国内に向けて「啓蒙」したりするような映画・・・なども作られています。
 北は小難しい映画も多くそれらを上映する料金の高いシネコン施設などがあり、南は地方の大劇場で大衆的な映画で大音響で上映されたりします。北は映画の内容がちょっと難しく西洋ナイズされた映画になってたり、南は大衆的な娯楽傾向の強い内容の映画の傾向がありますね。
 ラジニ様の「タミル語」映画や、NTR Jr.などのスターの映画は「テルグ語」でして「南インド」の言語に属する映画です。インドのカーストは職業別カーストでもありまして映画の世界もそういう傾向にありますし、映画関係者の家柄というのは重要なファクターでもあります。能や歌舞伎の家とかと似ているかもしれませんね。そんな中、それ以外の職業のところから映画を作る人も出てくるわけですが、地方の庶民階級層などの中からスターになる立身出世を遂げたその方が、あのラジニ様でして、階級のきまっている苦しい貧困社会の一地方のインドにあるからこそ、彼はそういう「立志伝中の人物」として多くの人に愛される人物でもあります。
 北の映画は中流~上位層な側面をもってる映画人脈の家柄など重要なファクターとしてあるのですが、現在では末端で多く作られてる映画では必ずしもそういうわけでもなく、でも偉大な映画業界にいた父の後を継いで映画の世界に入る子息たちの存在もあり、バッサリと必ずしもこうだとは言い切れませんが、インドの富める都会の北、貧しい未開の南という背景があった(過去の話)ことは、映画というところに資金がかけられる度合いに影響しそれが経済成長と共に変わってきた経緯がありますので、それらのお金のある都市が支えになってその映画が栄えるのは必然ということですね。テルグ映画で、例えば日本で有名なNTR Jr.は偉大な映画界の俳優、祖父を持つので、映画界としてはボンボン家系に属する人です。

 //-----補足・追記-------- 北は小難しくと言いましたが、北(ヒンディ)は国策傾向が強くインド全土に配信するため「インド国民への啓蒙・教育」が根底にどうもあるので、また政治の中心は北にあるという特色があるので、わざと北は小難しいと書いています(インド映画初心者向け)。が!本当はインド映画をどんどん知っていくと、インドの歴史や芸術・文化の深さは南の地には溢れていまして、やたら難しいものを作らせたら南の映画に勝るものはありません!(^^;) 一度やそこら見たって理解できないような難解な映画は南の方がもの凄いものを世間にぶっこんできます…(^^;) だからと言って興行成績に現れるとは限らないのが、予算からマーケティング範囲から北よりも狭い南の映画の厳しさです(^^;) でもまぁどの映画も「興行成績を挙げるのは、中味の無い娯楽w」であるのはどことも変わりないですので(笑)。
 北には政治の中央である都会にいる者たちからのそこはかとなく漂う上から目線の分だけ、北は少々小難しい映画を啓蒙目的もかねて超娯楽にして作ってるというように理解してもらえると、北の小難しく…の意味が解ると思います。逆に南は予算の無いところはとことん脚本を練るのでとんでもない難解な映画を時々ガン!と作ってきますが脚本の難しい映画はなかなか売れません。南気質=北・中央への反骨心もあるのでそこを大事にして、娯楽な映画を作ると大いにウケるなどもあります。今は北が予算がある映画が多かったですが、最近では南も予算があると派手な画面にできるので、今はそういう派手さの興行成績で南が景気良い娯楽傾向にあると考えてもらってもいいかもしれません。
 入口はインド映画は北から入っていくでしょうし多くの映画をそのうち見てるうちに、そのうち北も南も映画の枝部をみるようになると、北=娯楽・啓蒙・スター…でも底浅い?偽善的?  南=ぶっ飛びあり得ない表現な娯楽・社会への反骨心?・意味深なシーン=ひぇぇ難しい~~(@@;) と、そのうち逆転していくと思います(笑)。その域に達するぐらいまで、どうかインド映画を愛していただけると幸いです(^^)v -----------//




<産業や都市の経済成長を背景に>
 ボリウッドは商業都市ムンバイが中心の映画です。日本には古くからこちらの方の映画が入ってきていますし、90年代終わりから00年代半ば過ぎ(現在に至る)までのボリウッド映画の大改革と躍進は、そのムンバイの経済成長を背景に支えられてきています。 時期を遅れることなしにすぐ追って、テルグ映画やタミル映画がこのところ急激に伸びているのは、インドの経済成長を支える地域のハイテク産業都市ハイデラバード工業都市チェンナイの経済が大躍進している背景があるからで、映画に掛ける資金も大きく成長している背景があります。(タミル語圏は南インドの伝統芸能を伝えている地域でもあるので映画と昔からなじみがよいのはそういう理由「も」あると思われます。南インドへの入り口というのだけではなく、南インド芸術の玄関口でもあるのです)

 テルグ映画が近年大躍進を遂げている理由の一つに、ハイテクIT産業の都市であることも、その映像に大きな影響を与えています。また海外に住むインド人(NRI)に方々のネットワークは、そのインドの人口母体が多いことで世界中にネットワークがあり、インド映画がワールドワイドに活躍している支えにもなっていますし、だから人材の交流も盛んになりますし、IT業界へのインド人の世界への進出は非常に大きな原動力です。それがまた本国にその技術やノウハウや人材が還元されて、本国インドも発展を支えてくることにもなります。

 ヒンディ映画は中央のお声がかりのある側面が多少ないわけではなかったので、またスターたちの風貌が西洋人のような風貌の人もいるので、北の映画は西洋風の肌の色の白い背の高いハンサムなスターや美女が並び、南の映画は肌の色の黒いおひげの頼りになりそうな強い男性や柔らかそうな豊満な美女が映画の画面の中に並びます。男女の美の基準は国や地域によって異なりますが、男性が強い社会だと(その分インドは女性の地位の問題は根深くありますが)、映画の中で求められる男性も強く頼りがいのある人がもてはやされるのも映画の観客が男性中心であるからでもありましょうか。(男性は一人で映画に行けますが、女性は殿方に連れて行ってもらわないと、ちょっとやはり危ない地方の映画館です。日本は映画館に通う映画ファンは圧倒的に女性が多いですけどね)

<映像に観る南北比較>
 ではちょっと、北の映画と南の映画のミュージカルシーンの映像を並べて比較してみましょうか

★北の例:ボリウッド映画のスター 映画「Bang Bang !」(-2014)から

https://www.youtube.com/watch?v=jZyAB2KFDls
主演 リティック・ローシャン、 ヒロイン カトリーナ・カイフ  美男美女の取り合わせですね。西洋人といわれても気がつかないかもしれませんし、男女とも七~八頭身なスタイルの良さと細さと肌の白いスターです。

★南の例:テルグ映画スターアル・アルジュン主演 映画「Sarrainodu」(-2016)から

https://www.youtube.com/watch?v=7vstDCF5qv4
こちらはテルグの人気スター、インド風な風貌のお髭と、女性は少し豊かなラインの女性がセクシーに踊るダンスミュージックですが、超絶ステップに驚きます!

 どうですか?パッと見ただけでも、その見た目の差は感じますよね。北の映画は背が高い色の白いアーリア系人種も多く、南はドラヴィタ系の肌の黒い背の高くない人種も多いですね。北と南だけでも、インドにおける「美男美女」の価値が違うのが、とてもよくわかる二つだと思います。ついでに言えば、どちらもダンスだけは、素晴らしい技量を持ってるところが重要(笑)。

  映画というと欧米の影響が強い私たち日本でさえも、白人ハンサムな美男美女が画面の中に並ぶとうっとりそれを眺めてしまっているわけで、インドが国策も兼ねて自国を代表する映画を国外に出すときに、北の西洋風美男美女が並んだ映画、特にボリウッド映画が、世界の市場に出ていくのは当然のことかもしれません。今は人種のことは表だっていうと大問題になりますが、映画としても南の地域のインドスターの映画では欧米や世界へ進出するには出来にくかった昔・・・であったろうことは容易に想像がつきます。ボリウッド映画がワールドワイドにファンを増やしていきた背景には、インドという国の国際的な位置付けや、対欧米の価値観や意識を常に頭の隅に置いて考えると、欧米は有色人種へのレイシズムも根強くあるので、彼らは欧米の技法をとりいれながら自分たちの実力を向上させて西洋風な映像の価値観も見せて作り、また自分たちのインド風も失わないようにもしながら、そこをミクスチャライズして育ててきたからかもしれません。
 近年は南インドの映画もとてもよく海外でかかるようになっています
 
 この間も友人をインド映画(先に紹介した「Bang Bang!」リティック主演)に誘ったら「髭のオジサンいやだ」と一刀両断されてしまい、髭じゃない絶対気にいるハンサムだ!と力説したのですが信じてもらえませんでした・・・orz インド映画=ひげの男性の映画・・・で語られがちな「偏った認識の日本」でありますが、インドでの映画の形成過程や源流を考え、英国植民地時代の流れを思えば、インドの映画を偏った切り口で判断するのは、ひじょーーーに失礼なイメージなのかもしれません。日本だって米国に倣った映画を作ろうとしてきた部分もあるわけですから、一つのイメージだけで他の国を判断するのは「忍者、腹切りサムライ、芸者=日本」というみられるのと何ら変わるものではありません。

<地方ごとのこだわりがある映画の世界?>
 ここまでは、インド映画を全部一緒くたにして判断するのは危険なことで、簡単に北と南の概略を書きました(実際はもっと複雑で多様化しています)。特に北と南を混同しすぎることは得策ではないとのことも。実際、これはその映画を見る「観客側の地方に拘る、地元愛の価値観」の話であります。
 
 さて、私は昨年春にテルグ他で活躍されている映画女優と女性監督の方を大学の招きで行われたシンポジウムを拝見させていいただきに行きました。そこで、あれだけ北だの南だの拘るインド人であり、それに拘る観客のいる世界であることを、映画を見てきててひしひしと感じたにも関わらず、映画の業界におられる方からは、それとは真逆の映画業界内のお話をご披露なさってくれました。
 シンポジウムに来て下さった女性監督(女優でもあります)Rohiniさんのお話と、女優のNithya Menenさんという方で4言語の映画に出演なさ、歌も歌われる才女でもあります。インド言語のいくつもの言語をこなし(英語はもちろん基本当たり前)、才能をいくつも見せる方です。そういう才能を認められて多くの経歴を重ねておられます。
 その映画人が話す北と南や地方の話ですが、観客側と違って映画業界の方々には実力に対する「リスペクト」がなされる環境にあり、映画界やIT産業では職業カーストの縛りが意外に緩いそうで、実力があれば尊敬もうけ出世することも叶うのだそうです。IT産業と映画産業は、インドの産業の中でも進歩的な分野の産業になっており、彼らインドを躍進する支えにもなっています。映画業界の方々には、地方の観客が拘りぬく「おらが村が一番絶対一番!!」というような頭の固さは無いそうで、スタッフも俳優も人材の行き来も交流も盛んにあって、技術やノウハウを盛んに行き来し合っていることをおっしゃってくださいました。 
 
 前にも少しチェンナイエクスプレスの解説のところで書きましたが、日本におられる知識階層のインド人の方がシャールクが南のルンギをまとってるのを見て、南なんかに迎合して・・・と漏らした北地域出身の方のぼやきの話を少し小耳に挟んだことがありますが、社会の側にはそういう垣根があるようなのですが、上映は地域は地域のこだわりとそこでしか通用しない言語があるわけです、観客の側の凝り固まった価値観が存在するのですが、映画を製作する側には、その実力に対しての垣根や壁を超える「Respect」があり、北だの南だののこだわりはないのが実情だそうです。映画の中ではそういう社会的なものを問題定義する表現は作っているのも多いですが、製作側の願いは、良い作品を作ること関して上下も左右も北も南も関係ない・・・それが映画人のプロであると。
 このシンポジウムは女性の地位の話のシンポジウムでして、その中で一つ紹介なさってくださったエピソードを紹介します。それでも男女の差・・・がやはりある国。映画業界は職業に就くためのライセンスカードのようなものが、カメラマン、照明さんとかに渡されるそうですが、近年まで女性は映画の職業にいててもそのライセンスカードを持てなかったそうなのです。女性はファッションやメーキャップなどの職業が多いそうなのですが。 ラジニ様が「シヴァージ」(-2007)という映画(この映画はワールドワイド向けの映画として公開されています)の中で、海外で活躍する女性メーキャプアーティスト(MJのメイクもなさったことのある方)のインド人の方を、ラジニ様の鶴の一声で(そこがスーパースターの証でもありますが)その方を招いて映画のメイク担当になっていただき、カードが発行され女性の職業人として、ラジニ様が敬意を示したことを語ってくださっていました。南の映画では、女性がその職業としてライセンスカードを持つことになった意味を、しっかり道をつけてくれたのがラジニ様・・・という話をなさってくださいました。Sir.Rajini、さすがでございます。本当にそういうすべての垣根を越えた偉大なスーパースターでございます。ラジニ様は芸歴は長く1970年代半ばから今に至るまで活躍する方です。 このシンポジウムはとても有意義な時間で面白かったです。(Rohiniさんって、あの人かーー!と今頃1年経って名前と顔とが理解できるようになってます、遅っ ^^;)

<ボリウッド今週秋公開>
 ボリウッドに話を戻しましょう。上の話の続きの例として、北のスターには、シャールク・カーンという映画名門の出身では無い人ですが、北の映画しかもインド全土に上映されるヒンディ語映画の大スターがいます。彼は中流階級の出身ですが父を早くに亡くし母の支えで学校を出演劇の世界に、TV番組から映画界へ入ったスターです。活動歴は90年代から現在も世界中で愛されるワールドワイドアイコンで、King of Bollywoodの称号を持つスターです。ボリウッド映画は世界に出ており、名門出身のアーミル・カーンや、サルマン・カーンと若い頃から(80年代終わりごろから)活躍してきたスターと並べられて、3カーンとして親しまれてきています。名門出身では無い俳優がTV時代の影響力も後押ししてその中に名前を連ねているのですからやはりこれは快挙なのだそうです。
 インド社会には、そういう階層の縛りもあり、地域のこだわりもあり、南北の格差も意識の差もあり、さらに宗教対立の複雑さはテロを生み出してもおり、これらはインド映画には必ず重要なファクターとして、映画の重要なモチーフにもなっています。観客も、おらが村が世界で一番!気質を持っていますが、ボリウッドスターの映画はインド中で地方でも上映されますし、いろんなリメイクなどで、南の映画が北に取り上げられることもしょっちゅうです。
 映画は、それらを複雑なものや特色のあるものを分類したジャンルの映画もできており、「カシミールもの=カシミール地域のイスラム・テロの話」 「ゴアもの=ゴアがポルトガル領だったこともあってキリスト教の価値観の文化の映画」などのカテゴリーもあり、社会派な映画の多い北の映画は、貧困やカーストだけでなく爆弾テロという存在も頻繁に映画に出てきます。映画の中に複雑な社会事情を投影するのは、その複雑な「インドは実はバラバラ」という事情がインド国内に現実としてあるからです。こだわりのバラバラ、でもインドは国としてはひとつ、この矛盾した内包する魅力を多文化共生社会と呼んでいて(特亜隣国との政治や人権問題とかに使われる意味合いと大きく違いますので、お間違いなく・・・。)、バラバラでそれぞれ別個に独立しておりでも、それはインドひとつの国でもあり・・を映像にしているのが、それが国策傾向の強いヒンディー映画には、時々詰まっているかもしれません。

 今度日本で秋に公開される「pk」という映画はボリウッド、ヒンディ語映画です。3カーンの一人アーミル・カーン主演の映画は、インドの抱える社会の難しさを映画にしてきた監督 ラージクマール・ヒラニ監督のメガフォンをとった作品です。アーミルは社会派な映画に中心を置いております。シリアスなものも社会派には多いですが、社会派の映画というのは総じてコメディでして、ブラックジョークの息づく英国の系譜を思うと、社会背景のシニカルさや現実の厳しさはそれが辛ければ辛いほどそれを背負うと笑うしかなくなり、これを映画にするというのはひじょーに知的に高度なセンスのいる作業でもあります。観客の期待を裏切る提示を常に出来る技量に圧倒され、見る側である私たちの認識や柔軟性が必要求められることを、ここで伝えておきましょう。(またそれだけインド社会についての知識の積み上げも必要なのは、インド映画の基本にもなっています。)

 ただ、トンでも映像を見てありえねーー!ギャハハハ!ってのもそれは映画の楽しみ方ですが、トンでも映画に見える映画でも、しっかりその地域の文化をネットなりででも簡単に調べてみると、その地域の伝統舞踊の踊り手をしっかり映画にひっぱってきて、その一流の技量を映画の中で見せてくれたりしていることもあります。(そういうのは日本の映画でもやってきていることなのですけれど。) 映画はその文化を知る入口・・・というのをインド映画を見れば見るほど知っていくことになります。あほみたいに笑い転げて楽しむのも一つの楽しみ方ですが、アホみたいな映画でも実はむちゃくちゃ奥が深い映画も、しっかり作っている彼らのその社会背景とそれを映像に顕せる技量を簡単に判断するのは、実は社会勉強が足りない・・・といわれてしまうかもしれませんね(^^;)

 音楽の歌詞には「ダブルミーニング」という意味を二重以上にひっかけて作られる手法がありますが(洋楽聴く人でダブルミーニングがよもやわからない人はいないでしょうね?)、インド映画はそれを映像の手法で行う作品を作る人がざらにいます(驚)。音楽の歌詞にダブルミーニングが基本で、音楽が切っても切れないインド映画がそこを踏襲してないわけはなく。古い50年代の映画の楽曲でもそれを見ることが出来ます。
 ここで1970年代の古い映画から一つ紹介。70年代のヒンディ映画の一本です。

 これはアミターブ・バッチャンの踊るMy name is Anthony Gonsalvesというインド中の人が知ってる「Amar Akbar Anthony」という1977年の映画一曲なのですが、映像を見ても、この音楽を聞いても、そのタイトル一つで、インドが西洋をどんなふうに切り取って観ているかがとてもよくわかる一本となっています。
 タイトルは直訳は「私の名前はアンソニーゴンサレス」ですが、ここで彼はシルクハットでイースターエッグの中から飛び出し西洋風に歌って踊って見せ、西洋風パーティーで意中の女性を射止めようと会場を動き回ります。曲も女性陣が「Excuse me please」と尋ね「My name is~」と歌うのですが、綺麗な英語をカッコよく西洋風に歌って踊る・・・ことがスマートというかあこがれの形にもなるインドの西洋かぶれ(日本だってそういう部分ありますよねw)の側面と、この「Anthony Gonsalves」という名前、名前の綴りから言うとポルトガルな名前で(インドのポルトガル領だった地域もあってその後イギリスに統治されています。インドで根付いたキリスト教文化のインドの宗教文化の混在ぶりを良くよく表わせたタイトルとなっています)、元イギリス領のインドが英語でマイネーム~といいながら、私はポルトガル語の名前ですよといってる時点で「英語をおしゃれにしゃべるポルトガル風な名前のインド人?・・・えっとつまり詐欺師?^^;」を連想出来ればインド映画を見る知識としては合格でしょうか(映像の中に詐欺に関する法律の第420条を示す数字が出てくるけどね・笑) とても気の利いたタイトルでもあるわけで。さらに、インドで名前というのはその人のカーストや宗教を表すので「ワタシの名前は~です。」という言い方はとても重要な会話のひとつです。ヒンディをローマ字表記だとMera name Anthony hai.となりますがアンソニーだとキリスト教か外人かも知れないとはわかります。このタイトルひとつでインドの複雑な社会を示した名曲となっています。
 この「Amar Akbar Anthony」という映画は、Amar=ヒンズー、Akbar=ムスリム、Anthony=キリスト教徒の3人の物語になっているインドの社会そのものを現すような陽気なミュージカル映画です。インド映画の目指している精神みたいなものが、この一曲や映画から見えるでしょうか?

<インド映画の入り口がどこでもOK> 
 入口は、奇抜な目の引く映像のものにひかれたとしても、あなたがインド映画の持つその奥深さに少しでも気づいてくださったのなら、その時には、ボリウッド=インド映画の総称という間違いは起こすことはなくなるでしょうし、ボリウッドなら3カーンやサイフ、アクシャイ、アジャイなど、タミルなら、ラジニ様以外のスター、カマルや中堅ヴィクラムや若手のヴィジャイ、テルグならアル・アルジュンやマヘーシュの名前も顔も見分けて言えるようになっているかもしれません。あ、でもスターの名前を覚えるより先に、悪役の名優たちの名前を覚えてしまうかもしれない南の映画wwかもしれません(脇役は言語またいで出演しまくってます・笑)
  私は入口が、ボリウッドの北の映画で本格的にハートを持って行かれたので、まずは勿論北のスターを覚えましたが、先程も言いましたように映画界は北も南も関係なく交流が盛んです(脇役、監督やスタッフ等は特に)ので、すぐに南のビックネームも知ることになりました。また別言語へのリメイク・リメイドも盛んですので、そこまでインド映画を好きになっていただけたのでしたら、あなたはどっぷり!インド映画の沼にハマってしまってるってことでしょうかね(笑)。

 インド映画に限りませんがどんなものでも、「こうでなければならない」という勝手な思い込みや固定観念で物事を見るのは危険です。インド映画を見るのにそんな頭の固いことをいっていては、心の底から楽しめたりできませんからね(笑) 好き嫌いや良い悪いの判断は個人の好みのものですが、だからといって自分の好みに合わないからと最初っから排除や排他行動することは全く筋が違います。インド映画の持っているいろんな様々な価値観そこに存在することまでは、彼らは否定しないのです。どんなものでも良いも悪いも関係なくそれがそこに存在することを認めています。これがとても大事なことなのです。

 実際の社会はバラバラなのかもしれませんが(笑)、それが一つになることを目指している映画製作側の彼らの思いが映画の中から伝わってくるくらいになるなら、貴方はインド映画が大好きになって、私のような初心者向けの解説など必要なく、自由にインド映画を見ていることになっていると、思います(^^)/


  @@インド映画初心者講座(?笑) これにて修了です(^^)/
by AkaneChiba | 2016-05-11 03:36 | Intermission | Comments(0)

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